研究の概要

  • 研究の目的
  • 年度計画
  • 成果報告

研究の目的

1. 研究期間内に何をどこまで明らかにしようとするのか

本研究の目的は、世界史における伝統都市の社会=空間構造を総合的に明らかにするための第一歩として、日本・フランス・中国における伝統都市イデアの史的展開過程を空間論的に認識・把握しながら、都市史・都市論の方法を一段と拡大・精緻化し、あわせて現代都市の再生・創造にむけての歴史的な諸課題や論点を抽出することにある。

21世紀に入って都市は新たな局面を迎えることとなった。高度に発達した資本主義の地球規模での広がりを前提として成長する巨大都市=メガシティ、その一方で予測できない自然災害(地震・津波・ハリケーンなど)やテロによって破滅の危機に瀕する都市、都市間競争の論理から取り残されて衰退・空洞化を余儀なくされる地方の中小都市、こうした都市の生と死のはざまのなかで、将来の都市イデアをどのように描くかは、いまや人類史上危急の課題として浮上している。都市の長い歴史のなかで、都市という存在がこれほど両義性と混乱のなかで揺れ動こうとしている時代はなかったといえる。

本研究は現代都市が直面している上記の課題において、あくまで伝統都市に確かな基盤を見いだしつつ、今後の都市のあり方を構想していくという立場を表明する。すなわち、世界の各地域に歴史的に形成され、現代都市の基層部分にいまも膨大な遺産として継承されている伝統都市のかつての実体を掘り起こし、その多様なあり方を緻密に認識する方法や、同質性と差異性を比較空間論的に把握する方法を鍛え上げることこそが、21世紀の都市文明を停滞と衰退・破滅への道から救済し、これを未来にむけて蘇生・成熟させるほとんど唯一の戦略と思われるからだ。そのなかで、本研究は人類が都市にいかなるイデアを描いてきたのか、そしてそれを具体的な都市という場でどのようなかたちで実現した(あるいはしなかった)のかを、日本・フランス・中国の都市を素材として、その史的展開過程のなかで明らかにする。 以上のような課題意識をもって、本研究は期間内に3つの共通テーマ(1.伝統都市イデアの生成とその諸類型、2.伝統都市イデアの具現化における空間と社会、3.近現代移行期における伝統都市イデアの変容)を日本・フランス・中国の3つの地域において明らかにし、その比較空間論的把握を総合的に追究する。

2. 当該分野におけるこの研究計画の学術的な特色・独創的な点、予想される結果と意義

本研究は後述する過去十数年におよぶ建築史学と歴史学を2つの主要な柱とする学際的都市史研究を前提としている。その共同研究のなかで次のような独創的な方法論が構築された。

2.1. 都市史の三分法的把握と伝統都市論

本研究では、都市の歴史を「伝統都市→近代都市→現代都市」という三分法による継起的な展開として捉える点に特色がある。20世紀初頭に北アメリカで形成され、資本主義的生産様式を背景にしながらこの1世紀余のあいだに地球的規模で普遍化した都市を現代都市とし、前近代においてそれぞれの地域の自然的・文化的条件や生産様式に規定されつつ形成された個性的な都市類型を伝統都市として定義し、伝統と近代の相克のなかで伝統都市が現代都市へと至る過渡期の都市を近代都市と位置づける。

2.2. 異なる伝統都市の比較空間論的把握

本研究では、従来の都市の素朴な比較史とは一線を画した、以下のような精緻な比較空間論的方法で臨む。

2.3. 社会=空間構造論的把握と分節構造論

都市分析の方法を社会=空間構造把握を基礎とした分節構造論におく。これは、都市を構成する権力、宗教、社会的権力、中間層、民衆などを社会と空間の分節的な関係構造として統一的に把握する方法で、建築史学と歴史学の長年にわたる学際的研究のなかで徐々に構築されてきた。本研究のテーマとなる都市イデアのもつ重要性もまた、この共同研究のなかで次第に顕在化してきたものである。

2.4. 都市イデア論

都市の建設や改造は、意識的か否かにかかわらず、特定のイデア(公権力の視覚化、宗教的理念、市民的な共同空間観念など)にもとづいて具現される。また構築された都市で時間をかけて形成された空間や社会には複数の都市イデアが積層・共在する。すなわち都市をイデアから読み解くことは、都市に関わる諸権力、時代精神、社会・文化的諸位相を総合的に捉えうる新たな方法を開発することにつながる。イデアを従来の単なる理想都市論や都市形態論に矮小化するのでなく、伝統都市から現代都市までの射程を念頭に置きながら、社会=空間構造を把握する総合的な方法として定位するのが、本研究の独創的な点であり、研究上の特色となる(この基本的なアイデアは、伊藤毅「グリッドとイデア-都市建築史の視点2」〈『UP』2005年7月号〉に概括的に述べたことがある)。

現代都市の抱える問題の所在を探る有力な手がかりとして、この都市イデアの近代・現代移行期の変容過程を明らかにすることが重要である。高度世界資本主義を背景とした都市文明のさなかにあるメガシティや衰亡の危機に瀕する都市は、まさに都市イデアの伝統的意義が喪失された結果顕在化したものであって、この問題設定も本研究における独自の視角ということができる。

2.5. 予想される結果と意義

本研究は冒頭に記した現代都市のクリティカルな状況認識から、日本・フランス・中国の都市史研究の最先端にいる研究者グループを組織し、確実な成果を収めるべく事前の議論を綿密に行った結果の申請であり、研究計画どおりの結果が得られることを確信している。研究分担者はいずれも過去長い期間にわたって共同研究を行ってきたメンバーであり、論点や問題意識を共有していることを強調しておきたい。予想される結果は、1.新たな都市イデア論の構築、2.日本・フランス・中国伝統都市の比較空間論の具体的提示、3.現代都市問題解明への視座獲得、の3点が挙げられる。またその意義は都市史研究・都市論への新たな方法の開発のみならず、将来の都市を構想するための確かな橋頭堡を築くことにある。

3. 国内外の関連する研究のなかでの当該研究の位置づけ

建築史学と歴史学の長年にわたる学際的研究をベースとしながら、前述のような独自の方法を自覚的に構築・展開させた実証的都市史研究は国内外に類例がない。比較都市論に関する共同研究は枚挙にいとまがないほど存在するが(若干例を挙げると、鵜川馨、ジェイムスL・マックレイン、ジョンM・メリアン編『東京とパリ』岩田書院、1995年、脇田修、ジェイムスL・マクレイン編『近世の大坂』大阪大学出版会、2000年、トマス・ベンダー、カールEショルスク編『ブダペストとニューヨーク』1994年、Russell Sage Foundationなど)、これらは共通のテーマや論点、方法を欠いた単なる個別研究の寄せ集めの域を出ず、比較を通じて都市史・都市論として深化させた形跡が認められない。

本研究は建築史学と歴史学の2つの学問領域を社会=空間構造論として架橋し、しかも3つの異なる地域の固有性と普遍性を相互に比較空間論として展開するための方法(都市史の三分法、伝統都市論、分節構造論、都市イデア論)を共有する先端的研究者によって担われるところに最大の独創性と特色がある。さらに後述するように、各研究分担者はそれぞれ自らの専門領域をベースにして国内外に独自の研究ネットワークを形成しており、研究の広がりは広範かつ多彩である。緻密な実証研究を基礎とし、学際的分野の共同で行われる成果は、都市史・都市論を格段に飛躍させるとともに、現代都市問題の歴史的解明に対しても多大な貢献ができることを確信している。

4. 成果の公表

研究成果は、現在企画中の叢書(出版企画決定済み)「講座・伝統都市(全4巻)」(伊藤毅・吉田伸之編、東京大学出版会)の1巻「伝統都市イデアの比較空間論」として出版し、成果の公表・還元を行う。

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年度計画

1. 平成18年度

研究目的の達成に向けて、研究組織体制、3つの共通テーマと3つの対象地域の研究分担、経費との関連性、第1年度の研究計画、の4項に区分して述べる。

1.1. 研究組織体制

次の3つの位相からなる研究組織体制を整える。

i. 研究運営センター

研究代表者を中心に、東京大学大学院工学系研究科伊藤研究室内に研究運営センターを置く。研究運営センターは、研究計画遂行の運営母体となり、研究分担者、海外研究者等の連絡事務、情報交換事務はもとより、研究の諸成果、蒐集したデータ等を集約するコア的な存在として位置づける。

ii. 研究単位グループ

研究代表者、研究分担者がそれぞれ共通テーマごとに研究単位グループを形成し(「研究単位」については下記(2)参照)、それぞれのテーマに応じて国内外資料調査、小研究会を開催する。小研究会は各々年数回を予定している。

iii. 研究補助グループ

各研究単位グループに博士課程在学中の若手研究者1名を配置し、研究推進の補助を行うとともに若手の育成をはかる。研究補助グループは全体の運営にも参画し、後述するシンポジウム企画および実施を担う。

1.2. 共通テーマ、対象地域、研究分担

3つの共通テーマ、3つの対象地域と研究分担者の関係は以下のとおりである。この9つのユニットを「研究単位」と呼ぶ。

  A 日本 B フランス C 中国
1 伝統都市イデアの生成とその諸類型 北村優季 伊藤 毅 北村優季
2 伝統都市イデアの具現化における空間と社会 吉田伸之 松本 裕 高村雅彦
3 近現代移行期における伝統都市イデアの変容 鈴木博之 松本 裕 高村雅彦

 

研究代表者および分担者は、上記9つの研究単位の責任者となって研究を推進し、年度ごとに実施する国際・国内シンポジウムにおいてその成果を公表する。

1.3. 経費と研究計画との関連性

i. 研究運営センター

これには運営事務担当の学生アルバイトを2名程度配置する。研究運営センターを稼動させるために、基本的な機材(ワークステーション関係機器、レーザープリンター、スキャナー等)を整備する。また地図情報を集約的に管理するためのGISソフトを導入する。また関連文献を収集し、運営センターに常置する。

ii. 研究単位グループ

個々の研究単位遂行のために必要とされる国内外調査旅費、年数回開催する小研究会出張旅費が見積もられる。調査に必要なフィルム等のメディア費ほか消耗品費が発生する。

iii. 研究補助グループ

各研究単位グループの若手研究員(年度ごとに合計3名)に対する謝金が必要である。

iv. 共通テーマと総括

共通テーマに関して、年2回(外国・日本)でシンポジウムを開催し、海外から研究者をそれぞれ3~5名程度招聘する。シンポジウムにおける通訳・翻訳料、会議費、アルバイト謝金、通信・郵送費、印刷・複写費が必要である。

1.4. 研究計画

i. 年度テーマの調査研究および比較分析

3年度にわたる研究期間において、各年度の研究計画は、上記(2)で示した9つの研究単位(1・2・3 × A・B・C)3つずつ実施することによって遂行する(これを「年度テーマ」と呼ぶ)。初年度である平成18年度は、「日本とフランスにおける伝統都市イデアの比較空間論」を年度テーマとし、1-Aの伝統都市イデアの生成とその諸類型(日本)および1-Bの同(フランス)、2-Aの伝統都市イデアの具現化における空間と社会(日本)の3つの研究単位を中心テーマとする。具体的には日本の古代都市・宮都におけるイデア(北村優季担当)、中世後期から近世初頭にかけての城下町建設におけるイデアの具現化と空間=社会(吉田伸之担当)、南西フランス中世計画都市バスティードにおける都市イデア(伊藤毅担当)の3つのテーマ(「年度テーマ」)に関して資料調査を実施し、小研究会を通じて論点整理分析・テーマ間交流を行い、比較空間学的方法の深化をはかる。予想される共通論点としては、都市の格子状計画に内在する意味と象徴、都市全体構成と支配原理、街区内の空間構成原理と社会、が挙げられる。資料調査先として、国内は独立法人奈良文化財研究所、京都大学付属図書館・同文学部古文書室、京都市埋蔵文化財研究所、大阪市埋蔵文化財センター、大阪市立博物館、国会図書館、海外はバスティード研究所(ヴィルフランシュ・ド・ルエルグ)、フランス国立古文書館(パリ)、フランス国立図書館(パリ)、パリ市歴史図書館を訪問し、夏期休暇を利用して集中的に資料収集および現地調査を行う。

ii. シンポジウムの開催(日本)

夏期休暇中における資料調査および小研究会において議論したテーマをもちより、9月末ごろに第1回シンポジウムを東京にて開催する。テーマは「伝統都市イデアの生成-日本とフランス」で、海外からはフランス・バスティード研究所長クロード・カルメット氏、同研究員ジョージ・オド氏、同セクレタリー、クロード・ポンス氏の3名を招聘する。この3名は伊藤と研究交流実績がある。シンポジウムの発表内容は日仏英の3カ国語に翻訳し、プロシーディングスとして公表する。

iii. シンポジウムの開催(フランス)

上記のシンポジウムの成果を踏まえて各研究単位の深化・拡充をはかり、平成19年3月上旬頃、フランスにおいて小規模な第2回シンポジウム(ラウンド・テーブル的研究集会)を開催する。場所は南西フランス、モンフランカン市を予定しており、上記フランス側招聘研究者が中心となって企画する。日本側からは研究代表者および研究分担者全員、研究補助者が参加し、1年間の研究成果の総括を行うとともに、日仏の研究交流を一段と進める。


2. 平成19年度

2.1. 年度テーマの調査研究および比較分析

2年度目にあたる平成19年度の年度テーマを、「伝統都市イデアの生成・具現・変容――中国と日本」とし、この年度に行う研究単位は、1-C 伝統都市イデアの生成とその諸類型(中国)、2-C 伝統都市イデアの具現化における空間と社会(中国)。3-C 近現代移行期における伝統都市イデアの変容(中国)の3つである。具体的には中国古代都城のイデア(北村優季担当)、中国伝統都市の建設とイデア-北京・天津・南京(高村雅彦担当)、中国近代都市イデアの形成と展開-北京・上海を中心として(高村雅彦担当)の3つのテーマ(「年度テーマ」)に関して資料調査を実施し、小研究会を通じて論点整理分析・テーマ間交流を行い、比較空間学的方法の深化をはかる。日中比較に関しては、前年度北村担当の研究成果を活用する。予想される論点としては、中国古代都城-長安・洛陽における都市イデアの生成、周礼考工記における中国理想都市像の再検討と藤原京との比較、北京・天津・南京にみる都市建設の経緯と社会=空間構造、北京天安門広場の形成と近代都市イデア、上海の現代都市化とイデアなどが挙げられる。資料調査先としては北京市図書館、北京市档安館、上海市図書館、蘇州市図書館、寧波天一閣、天津市図書館、南京市図書館を予定している。また中国研究教育機関である、北京社会科学研究院、清華大学、同済大学、東南大学、浙江大学、天津大学、天津社会科学院上海鉄道学院、上海交通大学、蘇州大学、廈門大学とは研究分担者高村雅彦の長年にわたる研究交流実績があり、調査研究を通して交流を一段と深める。資料調査および現地調査は夏期休暇を利用して集中的に行う。

2.2. シンポジウムの開催(日本)

前年度と同様、平成19年9月ごろ、調査結果を踏まえて第3回シンポジウム「伝統都市イデアの生成・具現・変容――中国と日本」を東京にて開催する。海外からは呉建擁氏(北京社会科学院)、張利民氏(天津社会科学院)、Bin Lu氏(北京大学)、Xuehui An氏(清華大学)、Lei Shao氏(上海大学)の5名を招聘する。この5名はすべて研究代表者伊藤と交流実績のある研究者である。シンポジウムの発表内容は日中英の3カ国語に翻訳し、プロシーディングスとして公表する。

2.3. シンポジウムの開催(中国)

平成20年3月上旬頃、上記第3回シンポジウムの成果とその後の研究単位の研究深化・拡充を踏まえて、第4回シンポジウムを中国(北京市)にて開催する。このシンポジウムは小規模なラウドテーブル形式のもので、中国側研究者と日本側との実質的な議論の交換を行うことを主眼とする。日本側からは研究代表者・分担者・研究補助者が参加し、平成19年度の研究成果の総括を行う。


3. 平成20年度

3.1. 年度テーマの調査研究および比較分析

最終年度にあたる平成20年度は、年度テーマを「伝統都市イデアの生成・具現・変容――日本・フランス・中国」とし、前2年度の成果を踏まえたうえで、最後の研究単位3つを実施する。平成20年度の研究単位は、2-B 伝統都市イデアの具現化における空間と社会(フランス、松本裕担当)、2-C 近現代移行期における伝統都市イデアの変容(フランス、松本裕担当)、3-A 近現代移行期における伝統都市イデアの変容(日本、鈴木博之担当)であり、具体的な研究課題としては、フランス帝政期におけるパリの都市構造と空間=社会、ナポレオン3世治世下におけるパリ大改造と都市組織、20世紀のパリ改造とグラン・プロジェ、東京における明治・大正・昭和における都市イデアの変遷、1960年代東京における首都イメージと改造、1980年代都市再開発とその都市イデア論的分析、などが挙げられる。必要な資料調査、現地調査は前2年度同様、夏期休暇を利用して集中的に実施する。資料調査先として、国内は国立国会図書館、東京都公文書館、東京都中央図書館、海外はフランス国立古文書館(パリ)、パリ市古文書館、フランス国立図書館、パリ市行政図書館を予定している。またフランス側研究者として、フランソワーズ・ブドン氏(元国立科学研究センター研究員)、フィリップ・ボナン氏(国立科学研究センター・ディレクター)、アニー・テラード氏(パリ建築大学ベルビル校研究員)と交流しつつ、議論を深める。なおこの3人は研究分担者松本裕と長年にわたる研究交流実績がある。

3.2. シンポジウムの開催(フランス)

平成18~20年度の総括を行うための第5回シンポジウムを前2年度で交流したフランス側研究者を中心にパリにて9月頃開催する。参加者は海外からは中国研究者2名、日本側から研究代表者・分担者6名を予定する。テーマは「伝統都市イデアの生成と変容に関する比較空間論I――日本・フランス・中国」とし、3地域の比較空間論の第1回目総括を行う。テーマは「伝統都市イデア論」、「伝統都市の社会=空間構造論」、「伝統都市イデアの変容」の3本を立てる。成果の発表は前2年度と同様である。

3.3. シンポジウムの開催(日本)

3年度にわたる研究の最終総括として、東京にて第6回シンポジウム「伝統都市イデアの生成と変容に関する比較空間論II――日本・フランス・中国」を平成21年3月頃開催し、その結果を集大成したうえで、出版にむけての準備に入る。

3.4. 最終成果の公表

最終成果は、現在企画中の叢書「講座・伝統都市(全5巻)」(伊藤毅・吉田伸之編、東京大学出版会)の1巻『伝統都市イデアの比較空間論』として、平成21年度中の出版を目指す。

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成果報告

1. 平成18年度

初年度である2006年度はフランスにおける都市イデアの生成と変容を探る目的で、南西フランス一帯に数多く分布するバスティードに研究対象を絞り、文献研究および実地調査を行った。調査対象になった都市は、精細な実測調査を行った都市と都市の概要をさぐるために踏査した都市の2種類に分かれる。前者はソーヴテール・ド・ルエルグ、モンフランカン、モンパジエの3都市で、都市図その他の歴史的資料および住宅実測調査を行った。また後者はサンクラール、ジモン、ボーモン・ド・ロマーニュ、ミランド、ミルポワ、コローニュほか10都市に及んだ。これらの調査結果は現在整理・分析中であるが、フランス中世におけるグリッド都市がいかなる背景で成立したか、それが近世・近代を経てどのような変容過程を経たかが明らかになる予定である。中世におけるグリッドは古代のそれとは異なり、中央広場を割り出すためのグリッドであり、整形街区を短冊状に分割して宅地分譲することに重点がおかれた。そして広場と教会は離れた位置にあって、広場はもっぱら流通・交易のマーケット空間として機能しており、世俗的なイデアが都市建設の主要な動機であった。
 来年度のアジア調査にむけて、2007年3月に中国の北京、上海、ヴェトナムのハノイ、フエの実踏を行った。このなかで、フエは19世紀初頭に建設された都城であり、近代ヨーロッパの築城技術を取り入れながらも、古典的な都城を生み出した点が注目される。来年度はこのフエにターゲットを絞り、フィールド調査を予定しており、現在研究会を立ち上げ、関連論文の読み合わせなど準備段階に入っている。
 なお上記の成果の一部はすでに都市史研究会編『年報都市史研究』、経済調査会『積算資料』などの雑誌媒体に発表を開始している。バスティードについては出版物として刊行することを想定して、現在執筆中であり、近々公表できる予定である。

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